【相続手続きの全体像】何から始めてどこまで?手続きの流れをまるごとやさしく解説
相続は、多くの方にとって一生に一度あるかないかのことです。大切な方を亡くされたばかりで心身ともに大変な時期に、慣れない手続きに直面し、「何から手をつければいいのか」「この先どうなるのだろう」と大きな不安を感じていらっしゃるかもしれません。
このサイトでは、そのような不安を少しでも和らげ、相続手続きの基本的な流れと最初の一歩を、分かりやすい言葉で丁寧にお伝えしたいと考えています。専門的な知識は必要ありません。一つずつ確認しながら進めれば大丈夫です。
今回は、相続手続きが始まってから終わるまでの「全体像」を、ステップごとにご紹介します。全体の流れを知ることで、少しでも安心して手続きを進めるきっかけになれば幸いです。
相続手続きの始まり:まず知っておきたいこと
相続は、亡くなった方(法律では「被相続人」と呼びます)の財産を、ご家族など(「相続人」と呼びます)が引き継ぐことです。
手続きは、亡くなられた時点から始まります。まずは、ご遺族として必要な対応(葬儀の手配など)を済ませることに専念してください。気持ちが落ち着いてから、少しずつ手続きに目を向けていきましょう。
相続手続きの主なステップ
相続手続きには、一般的にいくつかのステップがあります。状況によって順番が前後したり、必要のないステップがあったりしますが、大まかな流れを把握しておくと、見通しが立てやすくなります。
ステップ1:大切な方が亡くなったことの確認と死亡届の提出(ごく最初の段階)
これは手続きというよりも、一番最初に行うべきことです。医師から死亡診断書を受け取り、役所に死亡届を提出します。この手続きは、亡くなってから7日以内に行う必要があります。これにより、戸籍に死亡の記録が記載され、その後の様々な手続きの基礎となります。多くの場合、葬儀社の方が代行してくださることもあります。
ステップ2:遺言書があるかどうかの確認
亡くなった方が遺言書を残している場合があります。遺言書は、亡くなった方の最後の意思表示として、財産を誰にどのように引き継がせるかを記した大切な書類です。 遺言書があるかどうかで、その後の手続きの流れが大きく変わることがあります。自宅で保管されている場合や、公証役場に預けている場合などがありますので、心当たりを探してみましょう。もし遺言書が見つかったら、勝手に開封せず、家庭裁判所で「検認(けんにん)」という手続きが必要な場合があります(公正証書遺言など一部不要なものもあります)。
ステップ3:誰が相続人になるかの確認
次に大切なのは、「誰が財産を相続する権利があるのか」を確定することです。法律で定められた相続人の範囲や順位があり、これを「法定相続人」と呼びます。 一般的には、配偶者は常に相続人となり、そこへお子さん、ご両親、ご兄弟姉妹などが順位に従って加わります。誰が法定相続人になるかは、亡くなった方とご家族との関係によって決まります。これを正確に確認するためには、亡くなった方の生まれてから亡くなるまでのすべての戸籍謄本などを集める必要があります。これは少し手間のかかる作業ですが、その後の全ての手続きの基礎となります。
ステップ4:相続財産の調査とリスト作成
亡くなった方がどのような財産を持っていたかを全て調べます。預貯金、不動産(土地や建物)、株式や投資信託などの金融資産だけでなく、車や骨董品、宝石なども含まれます。 また、プラスの財産だけでなく、借金や未払いの医療費など、マイナスの財産(債務)も相続の対象となりますので、これらもしっかりと調べなければなりません。 調査した財産をリストにまとめる作業は、その後の遺産分割の話し合いや相続税の計算のために非常に重要です。通帳や権利証、固定資産税の通知書などを手がかりに探し始めましょう。
ステップ5:相続方法の検討(期限に注意!)
財産の調査が終わったら、相続する方法を考えます。 財産は基本的に全て引き継ぐ「単純承認」、借金などがプラスの財産より多い場合に、相続の権利を一切放棄する「相続放棄」、プラスの財産の範囲内でマイナスの財産も引き継ぐ「限定承認」の3つの方法があります。 特に「相続放棄」や「限定承認」を選ぶ場合は、原則としてご自身のために相続があったことを知ったときから3ヶ月以内に家庭裁判所で手続きをする必要があります。もし借金がある可能性が高い場合は、早めに検討し、期限を過ぎないように注意が必要です。
ステップ6:遺産分割の話し合い(遺産分割協議)
遺言書がない場合や、遺言書があっても相続人全員が話し合いで財産の分け方を決めたい場合は、「遺産分割協議」を行います。これは、誰がどの財産をどれだけ相続するかを、相続人全員で話し合って決めることです。 全員の合意が必要で、一人でも反対すると成立しません。話し合いがまとまったら、「遺産分割協議書」という書類を作成します。これは、その後の預金の名義変更や不動産の登記などの手続きに必要になります。
ステップ7:各種名義変更や手続き
遺産分割協議で財産の分け方が決まったら、いよいよ具体的な名義変更や換価(財産を売却して現金にすること)の手続きを行います。 * 預貯金: 銀行などの金融機関で手続きを行います。相続人全員の同意や遺産分割協議書、戸籍謄本などが必要になります。 * 不動産(土地や建物): 法務局で「相続登記」という名義変更の手続きを行います。この手続きは義務化され、期限が設けられていますので注意が必要です。 * その他: 自動車、株式、ゴルフ会員権など、名義変更が必要な様々な手続きがあります。
ステップ8:相続税の申告と納付(必要なら)
相続した財産の合計額が、相続税の「基礎控除額」という一定の金額を超える場合は、相続税の申告と納税が必要になります。相続税の申告は、亡くなったことを知った日の翌日から10ヶ月以内に行う必要があります。 基礎控除額は、「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」という計算式で求められます。例えば、法定相続人が3人なら、3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円が基礎控除額となります。相続財産の合計額がこの金額以下であれば、原則として相続税はかからず、申告も不要です。
不安を感じたら、一人で抱え込まないで
ここまで全体の流れをご説明しましたが、一つ一つの手続きはやはり難しく感じられるかもしれません。「本当に自分でできるだろうか」「間違ってしまったらどうしよう」といった不安は当然のことです。
そのような時は、決して一人で抱え込まず、誰かに相談することを考えてみてください。
- 市役所や区役所: 相続に関する一般的な情報提供や、利用できる制度について教えてくれる場合があります。
- 地域包括支援センター: 高齢者の暮らしを地域で支えるための総合相談窓口です。相続に関する悩みも含め、様々な相談に応じてくれる場合があります。
- 専門家:
- 弁護士: 相続人間でのトラブル(遺産分割でもめるなど)の解決や、遺言書の作成・執行など、法的な手続き全般の相談ができます。
- 税理士: 相続税の計算や申告に関すること、生前贈与を含む税金全般の相談ができます。
- 司法書士: 不動産の相続登記や、相続放棄の手続きなど、法務局や家庭裁判所に提出する書類作成の相談ができます。
- 行政書士: 遺産分割協議書や相続関係説明図の作成など、書類作成に関する相談ができます。
最初から専門家でなくても、まずは役所の窓口や地域包括支援センターで基本的な情報を集めたり、相談に乗ってもらったりするのも良い方法です。信頼できる相談先を見つけることが、安心して手続きを進める上で大きな助けになります。
まず最初の一歩を踏み出すために
相続手続きの全体像を知ることは、これから何をすべきかを見通す上で大切です。もし、今まさに相続に直面し、「一体何をしたら…」と感じているなら、まずは以下のことから始めてみてはいかがでしょうか。
- 気持ちを落ち着ける時間を持つ: 大切な方を亡くされたばかりです。まずは心身を休めることを優先してください。手続きは慌てなくても大丈夫です。
- 手元にある書類を確認する: 亡くなった方の郵便物や書類を整理し、遺言書がないか、どのような財産に関する書類があるかなどを、無理のない範囲で確認してみましょう。
- 家族や親族と連絡を取る: 相続人になる可能性のある方と、状況を共有し、協力して進められるかなどを話し合ってみることも大切です。
これらの最初の一歩から始めて、少しずつ、確認しながら手続きを進めていきましょう。
まとめ
相続手続きは、死亡届から始まり、遺言書の確認、相続人の特定、財産調査、遺産分割協議、名義変更、相続税の申告・納付と、いくつかのステップを経て進みます。
全体像を知ることで、先が見通せず漠然とした不安が少しでも軽減されれば幸いです。一つ一つの手続きは難しく感じられるかもしれませんが、全てを一度に行う必要はありません。一つずつ、順番に進めていくことができます。
もし手続きの途中で分からないことや不安なことが出てきても、市役所や専門家など、信頼できる相談先があります。決して一人で抱え込まず、必要な時には専門家の力を借りることも視野に入れてください。
この情報が、皆様が安心して相続手続きを進めるための一助となれば幸いです。