相続の手続きに「期限」があるってご存じですか?知っておきたいことと最初の一歩
相続の手続きについて、何から始めれば良いのか、いつまでに何をすれば良いのか、ご不安に感じていらっしゃる方も少なくないかと存じます。大切な方を亡くされて、ただでさえ大変な時期に、複雑に思える手続きに直面することは、大きな負担でしょう。
相続の手続きには、確かに「期限」が設けられているものがあります。しかし、すべての手続きに厳密な期限があるわけではありませんし、たとえ期限がある手続きでも、落ち着いて一つずつ確認しながら進めれば大丈夫です。
この記事では、相続に関する主な期限と、まずは知っておいていただきたいこと、そして最初の一歩として何をすれば良いのかを、分かりやすくお伝えします。
相続の手続きに「期限」がある主なもの
相続の手続きは多岐にわたりますが、特に法的に期限が決まっている代表的なものをいくつかご紹介します。
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死亡届の提出
- 亡くなったことを市区町村に届け出る手続きです。
- 期限: 亡くなった日を含めて7日以内です。海外で亡くなった場合は、その事実を知った日から3ヶ月以内となります。
- 通常、葬儀社などが代行してくれることが多い手続きです。
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相続放棄・限定承認の手続き
- 相続放棄は、故人の財産も借金も一切引き継がない手続きです。
- 限定承認は、故人の借金などが、受け継ぐ財産の範囲内でおさまっている場合にだけ、借金などを引き継ぐ手続きです。
- 期限: ご自身の相続開始を知ったときから3ヶ月以内に、家庭裁判所に申し出る必要があります。
- この3ヶ月という期間は、「相続する財産があるのか、借金があるのか」を調べるための大切な期間でもあります。もし、ご自身が相続人になったことを知ってから3ヶ月以内に手続きをしないと、原則として故人の財産も借金もすべて相続することを認めたものとみなされてしまいますので、注意が必要です。
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所得税の準確定申告
- 故人が亡くなった年の1月1日から亡くなった日までの所得について、所得税の申告と納税をする手続きです。
- 期限: 相続の開始を知った日の翌日から4ヶ月以内です。
- 故人が会社員などで給与所得のみだった場合や、年金収入のみで一定額以下だった場合は、この申告は不要なこともあります。
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相続税の申告・納付
- 故人の財産を受け継いだ場合に、相続税がかかる可能性があります。相続税がかかる場合は、税務署に申告し、税金を納める必要があります。
- 期限: 相続の開始を知った日の翌日から10ヶ月以内です。
- この10ヶ月という期限は、相続の手続きの中でも特に耳にすることが多いかもしれません。相続税がかかるかどうかは、故人の財産の総額などが関係します。財産の総額が一定の金額(基礎控除額といいます)以下であれば、相続税はかからず、この申告も不要です。
これらの期限を知っておくことは大切ですが、すべての手続きを一人で、完璧にこなさなければならない、とプレッシャーを感じる必要はありません。
特に大切な相続税申告の「10ヶ月」とは
相続税の申告・納付には10ヶ月という期限があることをお伝えしました。なぜ10ヶ月なのかというと、この期間内に相続する財産を調べたり、相続人全員で遺産の分け方について話し合ったり(遺産分割協議)、必要な書類を準備したりする時間が必要だからです。
もし、この10ヶ月の期限までに相続税の申告や納税ができなかった場合、本来納めるべき税金に加えて、延滞税や加算税といった税金がかかることがあります。また、相続税にはさまざまな特例(税金が安くなる制度)がありますが、期限内に申告しないと、これらの特例が使えなくなる場合もあります。
ただし、繰り返しになりますが、故人の財産が一定額以下(基礎控除額以下)であれば、相続税はかかりません。この基礎控除額は、「3,000万円 + (600万円 × 法定相続人の数)」で計算されます。例えば、相続人が配偶者とお子さん2人の合計3人の場合、基礎控除額は「3,000万円 + (600万円 × 3人)= 4,800万円」となります。故人の財産の合計がこの金額以下であれば、相続税の申告は原則不要です。
ご自身のケースで相続税がかかるか心配な場合は、まずは税務署や税理士に相談してみると良いでしょう。
期限までに「最初の一歩」として何をすれば良いか
多くの手続きに期限があると聞くと、焦ってしまうかもしれません。しかし、大切なのは「まず何をすれば良いか」を知り、焦らず、できることから始めることです。
最初の一歩として、以下のことを試してみてはいかがでしょうか。
- まずは落ち着いて、状況を整理する時間を持ちましょう。
- 一度にすべてを理解しようとせず、今、何が分かっていて、何が分かっていないのか、書き出してみることも有効です。
- 誰に相談できるか知っておきましょう。
- 頼れるご家族やご親族はいらっしゃいますか? 一緒に考えてもらうことから始められます。
- 専門家(弁護士、税理士、司法書士など)に相談するという方法もあります。難しそうに感じるかもしれませんが、多くの専門家は、相続に関する悩みを聞いてくれます。
- お住まいの市区町村の窓口や、地域包括支援センターなどでも、相続に関する基本的な情報提供や、適切な相談先への案内をしてくれる場合があります。
- 必要になりそうな書類を少しずつ確認してみましょう。
- 亡くなったことがわかる書類(死亡診断書など)
- 故人の戸籍に関する書類(生まれてから亡くなるまでの連続した戸籍謄本など。これは相続人を確定するために必要な重要な書類ですが、取得に時間がかかることもあります)
- 故人の財産に関する書類(預貯金通帳、不動産の登記簿謄本、生命保険の証券など)
- これらの書類は、一度に集めようとせず、「まずはこれだけ」と決めて少しずつ確認するので大丈夫です。
不安を感じたら、一人で抱え込まずに相談を
相続の手続きは、人生で何度も経験することではありませんし、専門的な知識が必要になる場面もあります。分からないことがあって当然です。
もし、手続きを進める上で不安を感じたり、自分一人では難しいと感じたりした場合は、遠慮なく誰かに相談してください。
専門家への相談はもちろんですが、まずは信頼できるご家族や、お住まいの地域の公的な窓口に相談してみることから始めても良いでしょう。親身になって話を聞いてくれる場所は必ずあります。
大切なのは、完璧を目指すことではなく、落ち着いて、一つずつ、できることから進めていくことです。
まとめ
相続の手続きには、死亡届の提出(7日以内)や相続放棄・限定承認(3ヶ月以内)、そして相続税の申告・納付(10ヶ月以内)など、いくつかの「期限」があるものがあります。特に相続税の申告・納付の10ヶ月という期限は重要ですが、すべての人が申告する必要があるわけではありません。
もし、相続の手続きで何をすべきか分からない、いつまでに何をすれば良いか不安、と感じているのであれば、まずは落ち着いて、誰に相談できるのかを知り、必要になりそうな書類を少しずつ確認することから始めてみてください。
一人で抱え込まず、専門家や公的な窓口にも頼りながら、焦らずに、一つずつ進めていくことが大切です。この情報が、皆様の不安を少しでも和らげ、最初の一歩を踏み出すためのお役に立てれば幸いです。