【遺言書がない場合】相続手続きの最初の一歩をやさしく解説
生前贈与や相続について、不安を感じていらっしゃる方も多いかもしれません。特に、大切な方が亡くなられて、もし「遺言書」が見つからなかった場合、これから何をすれば良いのだろうかと、戸惑うことがあるかもしれません。
でも、心配なさらないでください。遺言書がない場合の相続は、決して珍しいことではありません。多くのご家庭で経験されることです。そして、一つずつ確認しながら進めれば、きっと大丈夫です。
この記事では、もし亡くなった方に遺言書がなかった場合に、まず何から始めれば良いのか、その「最初の一歩」を、専門的な言葉を使わずに、できるだけ分かりやすくご説明します。
遺言書がない場合、相続はどのように進むのでしょうか?
遺言書がない場合、亡くなった方の財産(遺産といいます)を誰が、どのように受け継ぐか、つまり「相続」は、法律で定められたルールに従って進められます。
このルールでは、「誰が相続人になるか(法定相続人)」や、「財産をどのように分けるか」について、基本となる考え方が示されています。
誰が相続人になるの?(法定相続人)
まず、亡くなった方の財産を相続する権利があるのは、民法という法律で定められた「法定相続人」と呼ばれる方々です。
一般的に、配偶者の方や、お子さん、そして両親やご兄弟などが法定相続人になる可能性があります。誰が相続人になるかは、亡くなった方との関係によって順番が決まっています。
(※法定相続人が誰になるかの詳しい順番については、別の記事「[亡くなった方の財産、誰が相続する?法定相続人の仕組みと順番をやさしく解説]」でご説明していますので、そちらもご参照ください。)
財産をどう分けるの?(遺産分割協議)
遺言書があれば、そこに書かれた内容に従って財産を分けることが基本となります。しかし、遺言書がない場合は、法定相続人全員で話し合って、どのように財産を分けるかを決めることになります。
この話し合いのことを、「遺産分割協議(いさんぶんかつきょうぎ)」といいます。
遺産分割協議では、ご自宅の土地や建物、預貯金、株式など、亡くなった方のすべての財産について、「誰が」「何を」「どれだけ」相続するのかを、相続人全員で合意する必要があります。相続人の中に一人でも合意しない方がいると、原則として財産の分け方を確定することができません。
遺言書がない場合の相続手続き:最初の一歩
それでは、具体的に何から始めれば良いのでしょうか?遺言書が見つからなかった場合の、相続手続きの最初の一歩となるステップをご紹介します。
ステップ1:亡くなった方の財産と相続人を確認しましょう
まず、亡くなった方がどのような財産を持っていたのか、そして相続人は誰なのかを確認することから始めます。
- 財産を把握する: 預貯金通帳や不動産の権利証、生命保険の証書などを探してみましょう。借金や未払いの医療費なども財産として確認が必要です。すぐに全てが分からなくても構いません。見つかったものからリストにしてみましょう。(※財産の調べ方については、別の記事「[亡くなった方の財産、どうすればわかる?相続で大切な「財産リスト」の作り方]」で詳しくご説明しています。)
- 相続人を確認する: 亡くなった方の戸籍謄本などを集めて、法定相続人が誰にあたるのかを確認します。戸籍謄本は、本籍地の市区町村役場で取得できます。
ステップ2:相続人の方々と連絡を取り合いましょう
法定相続人が確認できたら、その全員に連絡を取り、今回の相続について話し合う必要があることを伝えましょう。
まずは電話や手紙などで、現状を共有し、今後どのように進めていくか相談する機会を設けることが大切です。
ステップ3:遺産分割協議を行いましょう
相続人全員で集まって、または個別に連絡を取り合いながら、財産の分け方について話し合います。これが遺産分割協議です。
話し合いの場所は、ご自宅や、必要であれば専門家の事務所などでも構いません。大切なのは、相続人全員が参加し、全員が納得できる形で合意を目指すことです。すぐに合意できなくても焦る必要はありません。何度か話し合いの機会を持つこともあります。
ステップ4:話し合いの結果を「遺産分割協議書」にまとめましょう
遺産分割協議で財産の分け方が全員の合意により決まったら、その内容を「遺産分割協議書(いさんぶんかつきょうぎしょ)」という書類にまとめます。
この遺産分割協議書には、相続人全員が署名し、実印を押す必要があります。遺産分割協議書は、後で行う預貯金の名義変更や、不動産の名義変更(相続登記といいます)などの手続きに必要となる、非常に大切な書類です。
ステップ5:遺産分割協議書に基づき、名義変更などの手続きを行います
遺産分割協議書ができたら、その内容に従って、それぞれの財産の名義変更などの手続きを進めます。
- 預貯金: 銀行などの金融機関の窓口で、相続の手続きを行います。遺産分割協議書や、相続人全員の印鑑証明書などが必要になります。
- 不動産: 土地や建物の名義を亡くなった方から相続人へ変更する手続き(相続登記)は、法務局で行います。こちらも遺産分割協議書や必要書類を準備します。
- その他の財産: 株式や自動車なども、それぞれの種類に応じた手続きが必要になります。
これらの手続きは、一つ一つ順番に進めていけば大丈夫です。必要となる書類は、手続きを行う窓口(銀行、法務局など)で確認できます。
もし、話し合いがまとまらない場合や、手続きが難しく感じる場合は?
遺産分割協議がスムーズに進まない場合や、相続人の間で意見がまとまらないこともあるかもしれません。また、戸籍謄本を集めることや、遺産分割協議書を作成すること、あるいは名義変更の手続きなどが難しく感じられることもあるでしょう。
そのような時には、一人で抱え込まず、誰かに相談することをおすすめします。
- 専門家: 弁護士、司法書士、税理士といった専門家は、相続に関する豊富な知識と経験を持っています。遺産分割協議の調整や、書類作成、手続きの代行などを依頼することができます。(※どんな専門家がいるかについては、別の記事「[相続や生前贈与の相談、誰にしたらいいの?専門家について知っておきましょう]」でご説明しています。)
- 公的機関: 市区町村役場の相談窓口や、地域包括支援センターなどで、簡単な相談に乗ってもらえる場合もあります。
- 金融機関: 預貯金に関する手続きであれば、取引のある銀行の窓口でも相談に乗ってもらえます。
費用はかかりますが、専門家に相談することで、手続きがスムーズに進んだり、ご自身の不安が和らいだりすることが期待できます。相談すること自体は、最初の一歩として有効な手段です。
まとめ
亡くなった方に遺言書がなかった場合でも、相続手続きは法律で定められた流れに沿って進めることができます。
- 亡くなった方の財産と相続人を確認する
- 相続人全員で財産の分け方を話し合う(遺産分割協議)
- 話し合いの結果を遺産分割協議書にまとめる
- 遺産分割協議書に基づいて名義変更などの手続きを行う
この流れを、慌てずに一つずつ進めていくことが大切です。もし、手続きに迷ったり、相続人同士での話し合いが難しかったりする場合には、専門家や公的機関など、相談できる場所があります。一人で悩まず、周りのサポートも借りながら、落ち着いて進めていきましょう。
この記事が、遺言書がない場合の相続手続きに直面された方の、最初の一歩を踏み出すための一助となれば幸いです。