亡くなった方の「遺言書」が見つかったら。知っておきたいことと最初の一歩
大切なご家族が亡くなられて、心身ともにお疲れのことと存じます。 そうした中で、ご自宅などから故人様が遺された「遺言書」が見つかることがあります。 「遺言書なんてあると思わなかった」「見つかったけれど、どうすればいいのか全く分からない」と、戸惑いや不安を感じる方もいらっしゃるかもしれません。
この記事では、遺言書が見つかった際に「まず何をすれば良いか」という、最初の一歩を分かりやすく解説します。落ち着いて一つずつ進めるための手助けとなれば幸いです。
遺言書が見つかったら、まず確認したいこと
遺言書らしきものが見つかったら、すぐにその内容を確認したくなるかもしれません。しかし、少し立ち止まって、いくつかの点を確認することが大切です。
1. 封筒に入っていますか?勝手に開けても大丈夫?
封筒に入っている遺言書の場合、その封筒に「開封しないでください」「家庭裁判所で開けてください」といった指示が書かれていることがあります。また、封がしてある場合もあります。
もし、封がしてある遺言書が見つかった場合は、原則として勝手に開封してはいけません。 後ほど説明する「検認(けんにん)」という手続きが必要になることがあります。
一方、封筒に入っていても封がされていなかったり、最初から封筒に入っていなかったりする遺言書もあります。このような場合は、比較的すぐに内容を確認できることが多いですが、それでも後述の手続きが必要になる場合があります。
2. いつ書かれたものですか?
遺言書には、通常、書かれた日付が記されています。複数の遺言書が見つかった場合、原則として日付が一番新しいものが有効になります。日付を確認することは、その遺言書が現在有効かどうかを知るために重要な手がかりとなります。
3. どこで保管されていたものですか?
遺言書がどこで見つかったか(ご自宅か、専門家から預かっていたものか、公的機関に預けていたものかなど)によって、その後の手続きが異なる場合があります。
遺言書にはいくつかの種類があります
遺言書には、主に知っておきたい「自筆証書遺言(じひつしょうしょいごん)」と「公正証書遺言(こうせいしょうしょいごん)」という種類があります。どちらの種類の遺言書かによって、見つかった後の最初の手続きが変わってきます。
1. 自筆証書遺言とは
故人様が、ご自身で全文を手書きして作成した遺言書です。 日付や署名、押印が必要とされています。
- 保管場所の例: ご自宅の引き出しや金庫、銀行の貸金庫など。
- 特徴: 手軽に作成できますが、形式に不備があると無効になったり、紛失や発見されないリスク、偽造や改ざんのリスクなどがあります。
- 重要なポイント: ご自宅などで見つかった場合、原則として家庭裁判所での「検認(けんにん)」という手続きが必要になります。ただし、法務局の保管制度を利用している場合は検認は不要です。
2. 公正証書遺言とは
お近くの公証役場で、公証人(こうしょうにん)という専門家が、故人様から聞いた内容をもとに作成し、保管している遺言書です。証人(しょうにん)と呼ばれる二人が立ち会う必要があります。
- 保管場所の例: 公証役場に原本が保管されています。手元にあるのは控え(正本や謄本と呼ばれます)であることが多いです。
- 特徴: 公証人が内容や形式を確認するため、無効になる心配が少なく、原本が役場に保管されるため紛失や改ざんのリスクが低いという安心感があります。
- 重要なポイント: 家庭裁判所での検認の手続きは不要です。
遺言書の種類で違う!見つかった後の「最初の一歩」
遺言書の種類によって、その後の手続きの最初の一歩が変わります。
ご自宅などで「自筆証書遺言」が見つかった場合(法務局に預けていないもの)
封がしてあるかどうかにかかわらず、原則として家庭裁判所に「検認(けんにん)」という手続きの申立てが必要です。 この検認とは、遺言書が発見された時点での状態を家庭裁判所が確認し、その後の偽造や変造を防ぐための手続きです。遺言書の内容の有効・無効を判断する手続きではありません。
最初の一歩として行うこと:
- 勝手に遺言書の封を開けない: 封がされている場合は特に重要です。もし開けてしまうと、罰金が科される場合があります。
- 家庭裁判所に「検認の申立て」を行う準備を始める:
- 申立てを行う家庭裁判所は、亡くなった方の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。
- 申立てには、申立書や、亡くなった方や相続人の方々の戸籍謄本など、いくつかの書類が必要になります。
- 必要な書類の準備や、手続きの流れについて、まずは管轄の家庭裁判所に問い合わせてみましょう。家庭裁判所の窓口やホームページで詳しい情報を得ることができます。
検認が終わると、「検認済証明書」が遺言書につけられ、その遺言書を使って、預貯金や不動産の名義変更などの相続手続きを進めることができるようになります。
法務局に「自筆証書遺言」を預けていた場合
2020年7月から始まった「自筆証書遺言書保管制度」を利用して、法務局に預けていた自筆証書遺言の場合は、家庭裁判所での検認は不要です。
最初の一歩として行うこと:
- 法務局に問い合わせる: 遺言書が保管されている法務局(亡くなった方が手続きをした法務局)に問い合わせて、遺言書の情報を管理している「遺言書保管ファイル」の内容を確認したり、「遺言書情報証明書」という書類の交付を請求したりします。
- 遺言書情報証明書を取得する: 相続手続きにはこの証明書が必要になります。法務局で手続きを行います。
手続きの流れや必要書類について、まずは保管している法務局に問い合わせてみましょう。
「公正証書遺言」が見つかった場合
公正証書遺言は、公証役場で公証人が作成し、原本が役場に保管されているため、家庭裁判所での検認は不要です。
最初の一歩として行うこと:
- 公正証書遺言の控え(正本や謄本)を確認する: 見つかったものが公正証書遺言の控えであれば、その内容を確認します。
- 公正証書遺言が作成されているか公証役場に確認する: 手元に控えがない場合や、作成されているか不明な場合は、全国の公証役場で検索してもらうことも可能です。お近くの公証役場に問い合わせてみましょう。
公正証書遺言の場合は検認が不要ですので、すぐに遺言書の内容に沿った相続手続きを進めることができます。
一人で抱え込まず、まずは相談してみましょう
遺言書が見つかった際の手続きは、普段聞き慣れない言葉が出てきたり、役所への提出書類があったりと、難しく感じるかもしれません。 しかし、これらの手続きは多くの人が経験することですし、決して一人で全てを完璧にこなす必要はありません。
不安を感じたら、以下のような場所に相談してみることを考えてみてください。
- 家庭裁判所: 自筆証書遺言の検認手続きについて、具体的な方法や必要書類を教えてくれます。
- 法務局: 自筆証書遺言書保管制度を利用していた場合の対応や、不動産の名義変更(相続登記)について相談できます。
- 公証役場: 公正証書遺言について相談できます。
- お住まいの市役所や地域包括支援センター: まずはどこに相談したら良いか分からない、といった場合に、適切な相談先を紹介してくれることがあります。
- 弁護士、司法書士: 遺言書の内容が複雑な場合や、他の相続人との話し合いが必要な場合など、専門家への相談も検討できます。
特に、ご自宅で見つかった自筆証書遺言の検認手続きは、最初の一歩として重要です。慌てず、まずは家庭裁判所に連絡を取ることから始めてみましょう。
まとめ
遺言書が見つかった際には、まずその種類(自筆証書遺言か公正証書遺言か)を確認し、封がしてある自筆証書遺言の場合は勝手に開封しないことが大切です。
- 自宅の自筆証書遺言: 家庭裁判所での検認申立てが必要な場合が多いです。
- 法務局保管の自筆証書遺言: 検認は不要です。法務局で手続きします。
- 公正証書遺言: 検認は不要です。公証役場で確認します。
手続きで分からないことがあれば、一人で悩まず、家庭裁判所や法務局、公証役場、お住まいの自治体の窓口などに相談してみてください。専門家(弁護士、司法書士など)に相談することも選択肢の一つです。
一歩ずつ、落ち着いて進めていきましょう。